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最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)592号 判決 1961年10月17日

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人山中大吉の上告理由第一点ないし第五点について。

設立中の株式会社の発起人組合の代表者が設立中の会社のため、会社の設立を条件として財産取得を約束する売買契約を締結した場合において、これについて商法一六八条一項六号による定款の記載がなされていないときは、右売買契約は設立後の右会社に対して効力を有しないものといわなければならない(最高裁判所昭和三三年(オ)第八〇九号、同三六年九月一五日第二小法廷判決参照)。

本件についてみるに原審は、昭和二四年一月二〇日、設立前の株式会社荒木組の発起人組合(但し原判示では発起人団体)が本件土地を右会社設立後の将来の材料置場及び事務所用地とするため伊豆野敬太郎から買受けたこと(但し売買契約書上は買主は発起人の一人である荒木福与個人名義)、右会社は同二五年一月一四日設立登記を経て設立されたことを判示している。けれども右発起人組合の本件土地取得は右会社設立のため必要な行為そのものではなく、設立後の右会社の将来の営業に必要な財産の取得であることは原判文上明らかであつて、かかる売買契約は商法一六八条一項六号により右会社の定款に記載されなければ直ちに設立後の右会社に対して効力を有するものとはいえない。のみならず設立後の右会社に対して本件土地が移転されるような法律行為がなされた旨の事実も原審の判示していないところである。そして更に原判示家屋についても、原審は、これが右会社設立前建築にかかり、その設立後完成したことを判示しているのであり、前記本件土地について説示したところと同様である。

してみると右商法一六八条一項六号による定款の記載がなされていたかどうか、又設立後の右会社に対し特段の法律行為等により本件土地及び家屋が移転せられた事実があつたかどうか審理しないで、本件土地、家屋に関する財産取得の約束が設立後の会社に対して効力を有するとして、上告人の本訴請求を排斥した原判決は右の点について審理を尽さず、法令の適用を誤り、ひいて理由不備の違法あるものといわなければならない。よつて論旨は理由あり、原判決は破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋 潔 裁判官 石坂修一)

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